「1月は行く、2月は逃げる、3月は去る」とはうまく言ったもので、気が付けばあっという間に弥生の季節となりました。
少しずつ花の便りが聞かれるようになってきた今日この頃。
本日は、菜の花をテーマにした春の句をご紹介します。
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菜の花や月は東に日は西に
こちらの句は、江戸時代の俳人であり画家でもある与謝蕪村が、現在の神戸市灘区にある六甲山地の摩耶山を訪れたときに詠んだ句だそうです。
眼前に広がるは、穏やかに暮れゆく菜の花畑。ふと見上げると、東の空に青から藍へ藍から漆黒へと濃く深く夜を彩りながら顔を出し始めた満月が。西の空へと視線を移すと、辺り一面を夕焼け色に染めながら大きな太陽が沈んでいく。
想像しただけで思わずため息をついてしまうような情景が、17の文字の中にギュッと凝縮されているようです。
■与謝 蕪村(よさ ぶそん)
享保元年(1716)~ 天明3年(1784)。「蕪村」とは中国の詩人陶淵明の詩「帰去来辞」に由来すると考えられている。俳号は蕪村以外では「宰鳥」「夜半亭(二世)」があり、画号は「春星」「謝寅(しゃいん)」など複数ある。
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菜の花といふ平凡を愛しけり
皆さんは菜の花と聞いてどのようなイメージをお持ちになりますか。
菜の花はバラなどと違って比較的平凡でどこにでもある花というイメージがありますが、この歌を詠った富安風生は、その平凡さこそが愛おしいと感じたのでしょう。
ちなみに、菜の花の花言葉は「小さな幸せ」「豊かさ」。
平凡な毎日の生活のなかにちょっとした小さな幸せを見つけて心豊かに毎日を過ごせたら素敵なことですね。菜の花はその佇まいや花言葉ひとつをとっても、とても親しみやすい花だと感じます。
■富安 風生(とみやす ふうせい)
明治18年(1885)~昭和54年(1979)。愛知県出身の俳人。高浜虚子に師事。逓信省に勤めながら俳誌「若葉」を主宰。温和な作風で知られた。
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続いては、比較的現代の俳人による句です。
ニット着て一本の菜の花になる
読む人の世代が変わると、句の内容もぐっとモダンに。
春になると菜の花色のようなパステルカラーの洋服を着てお出かけしたくなりますね。
■今井 聖(いまいせい)
昭和25年(1950)~。俳人、脚本家。新潟県生まれ、鳥取県育ち。句作は14歳のときよりはじめ、1971年「寒雷」入会、加藤楸邨に師事。1981年、楸邨の推薦により寒雷集賞受賞。
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最後にカワセミと菜の花の写真を。
カワセミの鮮やかなブルーと、菜の花の温かみのある黄色と緑の組み合わせが素晴らしく、とても癒されます。
いつまでも見ていたい写真です。