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「リベルタンゴ」の謎

 1912年アルゼンチンに生まれたアストル・ピアソラは、新しいリズムとメロディーでタンゴに革命をもたらした。
 彼の代表曲である「リベルタンゴ」は1974年に発表されて以来今も世界中の人たちから愛され、あらゆるミュージシャンによって演奏され続けている。「リベル」は、「自由」という意味で、これはピアソラ自身の造語だと言われている。どんなジャンルにも属さず、ロックのようであり、ポップスのようであり、アレンジによっては、ジャズにもなる。題名どおりの自由なタンゴなのである。
 私はこの曲が大好きで、初めて聴いた時から魅了され続けている。どうしてこんなに魅かれるのか改めて考えてみた。
 最初に聴いたときからどういうわけか二人の男性が脳裏に浮かんでくるのだ。一人は暗い目をした情熱的な若者で、もう一人は洗練された大人の男性である。

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 時代は第二次世界大戦時のフランス。彼はナチスが根絶やしにしようとしたジプシーで、この役を若き日のジョニー・デップが演じている。影のあるエキゾチックな顔立ち、引き締まった体、しなやかなアクション、微笑みも眼差しも、何もかもが美しく、哀しく、切なさで胸がしめつけられてしまう。ヒロインのフィゲルは自分の身を守るために彼から去っていくが、私ならいかなる悲劇がその後に待ち受けていようとも、チェーザーとは一瞬たりとも離れたくないと、この映画を見るたびに思ってしまうのである。

%e3%83%9d%e3%83%bc%e3%83%ab%e3%83%bb%e3%83%8b%e3%83%a5%e3%83%bc%e3%83%9e%e3%83%b3%ef%bc%92 もう一人の洗練された大人の男性とは、紛れもなく『スティング』のヘンリー・ゴンドーフだ。この超一流の詐欺師を演じたのは当時48歳のポール・ニューマンで、ダンディズムとは如何なるものか、彼から学んだ。
 銜え葉巻でいかさまポーカーをする度胸も、スーツやタキシードの洗練された着こなしも、茶目っ気のある笑顔も、どこをどうとらえてもため息が出るほど格好良く、余裕のある男の風格を感じずにはいられない。彼の傍にはビリーという女性が寄り添っているが、ビリーが羨ましくてならない。こんなに魅力的で頼もしい男なら私だって愛らしい女となり、彼に守られたいと、心から思うのである。

「リベルタンゴ」を聴くと何故この二人が現れるのか、最近になってその謎が解けた。何年か前にNHKの「名曲探偵アマデウス #57ピアソラ『リベルタンゴ』」を録画していたのを思い出し、それを見たからである。
 番組の中で昭和音楽大学の准教授有田栄さんは、
「リベルタンゴはベースにリフと呼ばれる短いメロディーを何度も繰りかえす技法が用いられているが、この曲のリフの特徴は、音程が激しく上下するギザギザの旋律である。こうした旋律は悲劇的な意味合いを持ち、何かに追い立てられるような焦燥感や逃れられない運命のようなものを表す。一方それとは正反対に主旋律のメロディーはゆったりと伸ばされ、たっぷりと謳い上げられているが、それが焦燥感を癒すのだろう」と、解説されている。
 激しいリフと主旋律の癒しのメロディー、この鮮やかなコントラストがリベルタンゴを世界的なヒット曲にした理由のようだが、私の脳裏に二人の男性が浮かんでくる理由でもあった。
 リフがチェーザーをイメージさせ、主旋律がヘンリーを想わせたのだ。不条理な哀しみを背負う美しきチェーザー、その暗い目に溺れ、二人して世界の果てまで追いつめられたいと願いつつ、ダンディーな大人のヘンリーが、胸の奥に隠している女の願望を顕わにする。強い男に守られたい。満ち足りた愛に包まれて生きていきたいと願っていることを。
 女性なら誰でもそうした二面性を持ち合わせているのではないだろうか。この曲を聴くたびに私の女心は、二人の間で悩ましく揺れ続けるだろう。
ピアソラ語の「リベル」には、リスナーが空想に酔いしれながら演奏を楽しむ、その自由もきっと含まれているにちがいない。

「耳に残るは君の歌声」 発売:アスミック 角川書店

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「THE STING 」 販売:(株)ソニーピクチャーズエンターティメント

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