日頃から野鳥に魅せられている。カワセミの第一位は不動だが、最近ネット上のオガワコマドリの写真に一目惚れした。水辺の石に止まって、まっすぐに空を仰いでいる、その姿のなんと凛々しく、美しいこと。迷わず写真を購入。
オガワコマドリは喉の部分が青に彩られているのが特徴で、別名「ブルースロート」と呼ばれている。そこから胸元まで続く黒、白、茶褐色の模様とのコントラストが青の鮮やかさを際立たせている。
一人で眺めているのももったいないので、絵はがきにして友人に送った。
「オガワコマドリです。なかなかいなせでしょ!」と、一筆添えたところ、
「いなせは死語です」という親切メールが即届いた。
そんなことはあたぼうよ(おっと、これも死語だっけ)。だけど、この目の覚めるような晴れやかさ、雄雄しさは、古のスター中村錦之助の「一心太助」が乗り移ったようで、それ以外に表現のしようがなかった。
いなせとはどういう意味か、知っているようで、はっきり知らないから辞書で調べてみた。漢字で表すと「鯔背」となる。
鯔とはボラの幼魚のことで、このボラの背びれが、江戸時代日本橋・魚河岸の若者たちが結った髷に似ていたことから、その粋で威勢がよく、さっぱりとして男らしい気風を「いなせ」と呼ぶようになった。ということだそうだ。
魚河岸の若者といえばご存知「一心太助」、「一心太助」といえば中村錦之助なのである。これまで多くの役者がこの愛すべきヒーローを演じてきたが、錦之助を超える太助には未だお目にかかってはいない。
男前で、勇み肌で、純情で、笑顔が清清しく・・・
本当に天下一品だった。「いなせ」とは、中村錦之助が演じた一心太助の専門用語だったのではないかと思えてならない。だから太助に生き写しのオガワコマドリがいなせなのは、トーゼンのことだ。
そういえば死語となった言葉には、魅力的な男を表わす言葉が多かった。ざっと挙げてみると、
男前、二枚目、色男、伊達男、ナイスガイ、ダンディ、甘いマスク、苦みばしった、渋い、ニヒル、プレイボーイ、ドンファン、ロマンスグレー、等など。
何と豊かだったこと。そしてそれらの言葉に相応しい大物スターや名優たちも昔はたくさんいたのだが、みなこの世を去ってしまった。役者がいなくなったから、言葉が死語になったのか、死語になったから役者がいなくなったのか、わからない。
今の時代は老いも若きも、なんでもかんでも、いい男といえば、「イケメン」の一語で片付いてしまうようだ。それが映画やドラマを薄っぺらくしている一因とも思えるのだが、時代の趨勢だから、致しかたないか。