子供の頃家中に漂うコーヒーの香りで目が覚めた。
早起きの父が手動のミルと
サイフォンを使って、毎朝欠かさずコーヒーを淹れていたからだ。
「これを飲まないと一日が始まらないからね」
父はいつもそう言っていた。
コーヒーをおいしく味わうために、それに合う朝食も父が調える。
テーブルの中央に透明な蓋のついた黄色の食パンケースが置かれ、その周りには、瓶の小岩井のバター、雪印の北海道チーズ、いつも繁華街の明治屋で買ってきたジャムやアメリカ製のピーナッツバターなどが並ぶ。
出窓の棚ではポップアップトースターが食パンを待ち構え、その横の真空管のラジオから軽音楽が流れだしている。花の模様のついた魔法瓶もお湯をたっぷり湛えてテーブルの端でぴったりスタンバイ。
壁の柱時計が7時を告げかかる頃、季節の野菜や果物をテーブルに載せ、ゆで卵器から家族分のゆで卵をとりだすと、支度は完了。
父親が用意するこんな朝食を当たり前のように家族で食べていたが、昭和四十年前後の北陸地方では稀な光景だったかもしれない。
時代は昭和から平成となり、さらに令和になろうとしているが我が家の朝食は、あの頃父が用意してくれたものと変わりがない。
大きく違うのは、コーヒーが紅茶に変わったことである。
毎朝アッサムのミルクティーを飲まずには私の一日は、スタートしないのである。
いよいよ令和時代到来です。
新しい時代がみなさまにとって
いい時代でありますように。