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【本の紹介】『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』

三浦英之著『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』(小学館)

 

 

 

 

 

 

ゾウについて私が知っていることと言えば、かあさんも鼻が長いとか、
まれに耳で空を飛ぶ子ゾウがいるらしいということくらいである。
実物を見たことは数えるほどしかないし、自分が見たゾウがアフリカゾウなのか、それともアジアゾウなのかの区別もつかない。
しかし、いま、アフリカゾウは、私たち日本人が「知らなかった」では済ませられないような危機に瀕している。

アフリカゾウは、密猟によって、あと一世代で滅亡するかもしれないというのだ。

本書は、アフリカゾウの密猟組織に可能な限り近づいた取材に基づくノンフィクションであり、インタビュー対象者への接触方法やインタビューの内容、汚職が蔓延している東アフリカ諸国の実情などは非常にスリリングで読み応えがある。
しかし、それ以上に衝撃的だったのは、私たち日本人が、そうとは知らずにアフリカゾウの滅亡に加担してしまうかもしれないということである。

アフリカゾウの密猟の目的は象牙の密売であり、その主な密輸先は中国、そして日本だという。
日本では、象牙は主として印鑑の材料として用いられており、高級印材として人気がある。印鑑の販売サイト等を見ると、そこで売られている象牙の印鑑は、ワシントン条約で象牙の国際取引が禁止される以前に日本に入ってきた象牙を加工したものであり問題はないなどとされている。
しかし、密輸された象牙がそのような正規品として流通してしまうことは想像に難くない。正規品が存在するという状況がかえって密輸品を流通させてしまうということにもなり得る。
したがって、象牙の消費国が国内での取引を禁止しない限り、アフリカゾウの密猟は無くならないことから、国際社会では象牙の取引を禁止する流れが主流になっている。この流れの中で、象牙の最大の消費国であった中国は、2016年に国内取引禁止を決めた。このままでは日本が唯一の象牙の消費国になる可能性がある。

*参考映像:WILDAID Japan Ivory
https://www.youtube.com/watch?v=yw6OQD91EVg

一度滅亡してしまった動物を復活させることは出来ない。
一方で印鑑は象牙でなくても作ることが出来る。
象牙の消費は、アフリカゾウを地球上から滅亡させるリスクを生じさせてまで維持する必要があるだろうか。

象牙の密輸はテロ組織の資金源にもなっているという。
2015年にケニアの大学で起きた大規模なテロ事件(学生ら140人余りが殺害された)の生存者である青年は、著者にこう言った。
「日本人は象牙を買いますか?」

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