降って湧いたような災難だった。
中学時代の仲良し三人組のレイ子とトモ子と私が揃うと今でもすぐその話題になる。
中学二年の時の、夏の水泳大会の話である。私たちはこともあろうに、大会の花形種目だった「クラス対抗リレー」に出場する羽目になったのである。決して実力があったからではない。
その年はどういうわけか、既に選出されていた正規のメンバー四人のうちの三人が、相次いで病気になったり、怪我をしたりして、出場できなくなってしまったのだ。慌てた担任がいつも三人でつるんでいる私たちに目をつけ、こぞって身代りにしたのである。都合がいいという理由だけで。
「先生ひどいよね~」
話題がこのことになると真っ先に私が熱くなる。
「私は絶対にいやだったから、あの時先生に断りに行ったのよ」
いくら三人一緒とはいえ、私は自分の犬掻き同然の泳ぎを人前に晒すくらいなら、死んだほうがましだった。友情よりプライドだった。
放課後、一人で息巻いて抗議にきた私に担任は無気味なくらい優しかった。
「いやな思いをさせてすまなかったな。先生あやまるよ。だけどちょっと考え過ぎじゃないか。リレーのときはみんな興奮しているから、泳ぎ方なんか誰も見てないぞ。すぐに終わってしまうから、頼むよ。出てくれよ」
妙に納得する言葉だった。
「あの頃の中学生って。純朴だったのよね。そんな言葉で簡単に説得されちゃうんだから」
トモ子の言うとおりだった。
かくして水泳大会は瞬く間にやってきて、あっという間にリレーチームの出番となった。
第一泳者はさすがに正規の選手だけあって、トップで二番手のトモ子に繋いだ。日ごろ真面目で努力家のトモ子は密かに特訓していたのか、予想外の頑張りを見せ、順位をそのまま維持して、第三泳者のレイ子に繋いだ。
前評判とはあまりに違う展開に、クラスメートたちから大歓声が沸き上がり、待ち構えていたレイ子も怯まず飛び込んだ。が、次の瞬間信じられないことが起こった。
手足をバタつかせ懸命に泳いでいるつもりだったが、それは誰の目にも溺れているとしか映らなかったのだ。
場内に一瞬緊張が走った。レイ子は学年で一番の美少女だったので、彼女に想いを寄せる男子たちが一斉にプールサイドに駆け寄り、助けようと身構えたそのとき、レイ子はすくっと立ち上がった。
それからまた瀕死のアヒルのように手足をバタバタさせては沈み、きわどいところで立ち上がった。そうしたことを何度か繰り返した後、最後は堂々と歩いて、アンカーの私のところにやってきた。
「どうして泳げないのに出場したのよ!」
思い出すと今さらのように可笑しいやら、口惜しいやらで、レイ子に聞かずにはいられない。
「私もあのとき泳げないって、先生に言いに行ったのよ。そうしたら『何度立ってもいいから、ただ向う岸に渡ればそれでいいんだ』って先生が言ったのよ。それに『おまえだけに恥はかかせない。残りの二人もおまえと似たり寄ったりの実力だから』とも言ったのよ」
全くレイ子も純朴すぎる中学生だった。おかげで私は他のチームがすべて泳ぎ終えたプールで、たった一人で泳ぐことになり、死んだほうがましの犬掻きを、全校生徒に披露する羽目になってしまった。挙句の果て、わがチームは開校以来初の「失格」という輝かしい記録を担任に捧げたのである。
「恥ずかしかったね」
「もう忘れたいよ」
と、言いながら何年たっても、三人が揃うと、また昨日のことのように思い出して、盛り上がるのである。
テーマ 「水泳大会」