堀内法律事務所のブログ「止まり木」にようこそ。

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イケメンに限る

 診察室の扉を開けると真っ先に、
「お待たせしてすみませんね」と、西岡先生がにこやかに言う。その爽やかな笑顔が大好きな私は、かなり待たされたにもかかわらず、「いいえ」とにっこりしてしまう。
 西岡昇先生は、虚弱な胃腸に年中悩まされている私の守護神である。見立て良く、優しく、尚且つ医者にしておくにはもったいないほどのイケメンなので、私としては「言うことなし!」なのだが、他の人たちも私と同じらしく、クリニックがめちゃ混みなのが唯一の欠点だ。
 イケメンと言ってもいろいろタイプがあるが、先生は涼やかな貴公子系。それでいて、頼もしい医師なのである。年齢は四十代の後半ぐらいだろうか。
「今日はどうしましたか?」言葉も丁寧でソフト。
「また胃の調子が悪いのですが、今回は胃より背中が痛くてたまりません。食欲が無くて、とてもだるいです。もしや膵臓でも悪いのかと、心配になってきました」
 この症状をネットで調べたら膵臓癌と出た。
「そうですか。患者さんが背中の痛みを訴えられたら、私たち胃腸科の医師は、まず膵臓を検査します。では検査をしましょう」
 というわけで、検査室のエコーで膵臓を診てもらうことになった。
 検査を受けながら、何年も前に同じように背中の痛みで診察してもらい、酷い目にあった医師のことが思い出された。彼は野獣系。
「先生、背中がとても痛いのです。もしかして、膵臓癌ではないでしょうか?」
 その質問が悪かったのか、医師はみるみる不機嫌になり、
「プロの医者はとっくにそんなことは考えながら診察をしている!ど素人の判断は無用!」
と、大声で怒鳴った。
 肉厚な顔が憤怒の形相を呈してまるで仁王のようだった。驚愕した私はひたすらお詫びしてほうほうの体で退散した。背中の痛みはショックで遠のいたが、悔しくてならなかった。きっと彼は何かコンプレックスがあって医者になったに違いない。おそらく若き日の決して癒えることのない傷が仁王に変身させてしまうのだろう。
 腹立ちまぎれに考えたことだが、我ながら納得がいって、仁王さまを許すことができた。
「膵臓はきれいで心配ないです。でもお昼に食べたものが、まだ消化されずに胃にとどまっているようです」
 診察室に戻ると西岡先生は私のカルテを丹念に見ながら、
「疲労やストレスが貯まると、背中のほうにまで響いてくることがあります。新しい薬を処方しますからそれを飲んで様子をみてください。念のため血液検査もしておきましょう。これで悪いところがあったらすぐ連絡しますが、心配ないと思いますよ」
と、またにこやかに言った。整った顔が一段と眩しく思えた。これだから西岡先生って、素晴らしい! この優しさは本物のイケメンだけに備わった「天性のゆとり」なのではないかと私は推察している。故にホームドクターはイケメンに限る。
 その後、私の胃腸はまた順調に働き出している。新薬が効いているのかもしれないが、私の場合、なんと言っても、西岡先生のあの爽やかな笑顔のおかげと感謝している。

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テーマ「扉を開ければ・・・」

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