堀内法律事務所のブログ「止まり木」にようこそ。

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私の棄てた亀

「とっても縁起のいいものだから、これ貴女にあげるわ。私が作ったのよ」
と、知り合いのシゲ子さんが強引にずしりと重いものを手渡した。
 家に帰って、包みを開いて仰天した。八十枚ほどあろうかと思われる五円玉で作られた亀の飾り物だった。甲羅はどす黒く、目の部分のビーズが不揃いなため、目つきが悪く、こちらを睨んでいる。
 これのどこが縁起がいいのかわからない。不気味な亀はとりあえず箪笥の奥にぶち込んだ。
 ところが用事があって箪笥の引き出しを開けるたびに亀がにゅ~っと現れて、睨みつけるのだ。普段は忘れているので、不意を突かれていつもギョッとする。心臓に悪いこと、この上ない。
 段々亀を成敗せねばと思うようになった。
 だがお金で作られているので捨てられない。それでは五円玉を一つ一つ切りとって亀を解体しようかとも考えたが、凧糸がぎちぎちに結んであって鋏を入れるのも一苦労。
 それにそんなことをすれば、「私が作ったのよ」というシゲ子さんの声が聞こえてきそうで後ろめたい。
 あれこれ散々悩んだ後、素晴らしい考えが浮かんだ。我ながら画期的な解決法だった。早速亀を引きずり出して、小脇に抱えるとそのまま近所の小さな神社へ急いだ。平日の昼下がり、辺りを見まわしたが、境内には狛犬以外誰もいない。神殿の御戸の手前中央に、古びた木製の賽銭箱がどっしりと置かれてあった。これが亀の新居だ。
神社
 中を覗いて見ると、表面入口は数本の細い棒で垂直に仕切られ、その奥は中心部を空けて、二枚の板が下向き平行に被さりあっていた。硬貨や紙幣なら問題なく通過出来そうだが、亀はどうか……強行突破するしかない!
「さあ亀ちゃん、お引越しだよ」と、ぎゅっぎゅっと押し込んだが、亀はいやがって土壇場で懸命にふんばり、なかなか入ろうとしない。往生際の悪い亀め!と、こちらも必死でねじ込むと、ついに根負けしたのか中へ落ちていった。ドサッと、乾いた木の底に当たった音がした。賽銭が少ないようだ。
「神主さん、この亀を差し上げます。とても縁起のいいものだそうです。きっと貴方のお役に立ちます」
 鈴を鳴らし、拍手をしこたま打った。
 帰る途中、心が晴れ晴れして、笑いがひとりでにこみあげてきた。

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